ウスバキトンボは世界中の熱帯、亜熱帯、温帯地域に住んでいるトンボで、日本でも真夏には全国でごく普通に見られます。とくに8月の旧盆の頃に多く、「精霊トンボ」とか「盆トンボ」とも呼ばれていて、私の子供の頃には、このトンボはご先祖様の使いだから決して捕まえてはいけない、と教えられたものでした。このように日本中どこにでもいるトンボなのですが、一つ弱点があります。それは、寒さに弱いため日本のほとんどの場所で冬を越すことができないとうことです。今のところ冬を越すことができるのは沖縄のような冬も暖かな地域だけのようです。このため、毎年海を飛んで春に九州南端や四国南端にたどり着くと考えられています。しかし彼らが沖縄からやって来るのか、もっと南の東南アジアからなのか、あるいは小笠原の方からなのか、そのルーツは謎に包まれています。各地でいつ頃からウスバキトンボが見られるのかを文献から拾い出してみると、鹿児島県では3月下旬、熊本県と千葉県では5月上旬、高知県では4月上旬、富山県では6月下旬、長野県では6月中旬、新潟県では7月中旬となっており、南方や海岸沿いの地方ほど早く見られるようです。この辺りのことは今回の調査ではっきりすることでしょう。
 ところで、ウスバキトンボは寒さに弱いという欠点を補うかのように、他のトンボにはない長所があります。それは長時間飛び続けられることと、卵の
期間や幼虫の成長速度が群を抜いて速いということです。この長所を利用して全国に広がることができると考えられます。つまり、4月頃に九州や四国にたどり着いいたウスバキトンボにとって、その頃に田植えが行われてる田んぼは好適な産卵場所となります。田んぼは天敵が少ない反面、餌が豊富な環境であるため、田んぼからたくさんの成虫が生まれると考えられます。そして田んぼから飛び立った成虫は北を目指して移動し、各地の田植え直後の田んぼや水たまりに産卵します。こうして世代を繰り返しながら北上し、ついには北海道の北の端までたどり着くことになります。しかし、寒さの訪れとともに北の地方から死に絶えてしまうのです。


静止中のウスバキトンボ(新井)



移動中のウスバキトンボ(新井)


<< Top [ 全国「赤とんぼ」調査]  | Back | Next |