どうして日本人は、赤トンボが好きなのでしょうか。この調査の主役のウスバキトンボとアキアカネは、百姓に寄ってきます。田んぼの中で草をとる百姓や、畑で働く人間に寄り添って飛びます。腰をかがめてじっとしていると、耳のそばを通るときに羽音を聞くこともできます。この国には二百種類ほどのトンボがいますが、この二種はあまり人を恐れないようです。
  彼女ら、彼らは知っているのです。田の中の百姓のそばに行くと、エサがいっぱい安心して食べられることを知っているのです。一方百姓は赤トンボを大切にしてきました。2400年前から、この国の各地で田んぼが開かれてきました。それにつれ、赤トンボが増えてきたのです。原日本人は、このトンボは稲と一緒に渡ってきたのだと思ったのかもしれません。稲を携えて来た渡来人は、ここにもふるさとのトンボがいると感激したのかもしれません。
  もちろん、赤トンボは田んぼの益虫ですが、それだけではないでしょう。このトンボに精霊トンボ、盆トンボという名前をつけて、先祖のタマシイを乗せてやってきて、また帰っていくという物語が、全国各地に残っているのは、このトンボから何かを受けとり、このトンボに何かを託したのです。その何かとは、何だったのでしょうか。その何かが、2400
 年間たった現在に伝わっているから、私たちは何も見あたらない空よりも、赤トンボが群れ飛ぶ夕空に、心がふるえるのです。だからこうしてまた、あなたも私も、赤トンボに呼びかけているのです。
  その何かが、かよいあう気がしませんか。それがこの国の稲作文化の底にあるものです。その何かをもう一度、見つけるために、この調査は企画されたといってもいいのです。ここでは、その何かを私たち二人の言葉で語ることをやめます。あなたが赤トンボに向き合い、あなたの思いがわき上がり、言葉になって溢れる瞬間を待ちます。
  赤トンボにとっては、試練の時代が続いています。単に田んぼで生きにくくなった、ということだけでなく、赤トンボにそそがれる“まなざし”が決定的に減ってしまいました。これこそ、赤トンボの危機の本質です。百姓仕事の危機の本体です。近代化された「農業技術」には、赤トンボに注ぐまなざしが見あたりません。しかし、「百姓仕事」には残っているのです。なぜそうなったのかも、赤トンボを眺めていると、わかるような気がします。
  みなさんの調査を心待ちにしています。あなたの“まなざし”の深さが頼りです。

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